明治時代に作られた本箱の修理が出来ないかと、ご相談を受けました。
状態は決して良いとは言えませんでした。
到る所にガタつきや板割れがある以外に、そこらじゅうが虫に食害され、酷い所は写真のように欠損してしまってました。
お客様には、例えガタつきを修繕したとしても外観の感じは奇麗にはならないので、同寸法で新しく制作した方が良いのでは…と進言させて頂きました。
この本箱には、写真の様にフタが付いていました。
これは本箱と云いましても、ご住職でありますお客様のお寺で明治より使われていた経典を納めるモノでした。
フタは、2枚は無くなっていましたが、そのフタには墨書きされた和紙が貼ってありました。
なんともステキです!・・・こういうものには、めっぽう弱いのです(笑)
フタの後ろに納められた経典の目録だと思われます。
お客様とは同じ寸法で新しく作ることで話が決まり、その採寸の為この本箱を預かって作業場に帰ったのですが…
んんんん・・・・この「フタ書き」を見ていると・・・・
お客様のご先祖の直筆だろうしなぁ~…
…歴史の重みを感じるなぁ~…
…何とか活かしたいなぁ~…と思ってしまったのですね。
フタだけ使って、本体を作る事も考えましたが、状態は悪いにしても今では貴重な純国産桐を使ってますし…
何より、お客様の意向はご自身のご先祖が代々使ってきたモノを無くしてしまうのではなく、何とか使える状態にしたい
…そんな風に感じてましたので
「虫食いも酷いですし傷も深いですので、見た目が奇麗にはならないと思いますが、折角ですので、使えるように修繕し、できる限りの美装を施しますね」
・・・と、お伝えしました。
お客様も「どんな形でも直して使える方が良い」と仰っていましたので選択は間違ってないかと思いました。
以前に綴った「米糊」や「板剥ぎ」はこの本箱の事だったのです。
修理の方法は、一旦すべてを分解し、傷みの酷い所を修繕・補強し、組み直しました。
特に前面(「見付け」と言います)は虫の食害が激しかったので、10mm程落して同材の桐を剥ぎました。
同じ桐ですが、「明治」と「平成」・・・当然ですが100年の年の差でこんなにも色が違います。
で、今日の本題です…今回も柳家小三治バリの枕の長さです(笑)
この色の違いが何とかならないものかと考えてましたところ、木工所のお師匠より貸してもらいました。
「過マンガン酸カリウム」
化学式は「KMnO4」です。
科学で習った「potassium permanganate・・・ポタシウム・パーマンガネート」ですね。
・・・・習ったことありません(笑)
3代続く建具職人のお師匠の説明によれば、昔々には障子等の木製建具を修理する際に塗装に使ったそうです。
今回のように新しい部材を追加する際には、その色合わせに重宝したそうです。
では実際にどんな感じかと言いますと…
水で溶かすとこんな感じになります。
真白な桐です。
水溶解して深紫色した「過マンガン酸カリウム」を塗布します。
すると塗った途端に薄茶色に化学変化します。
これは塗装と言うよりも、表面を酸化させて木肌を変化させているようです。
まるで科学実験です!
興味が湧き、「過マンガン酸カリウム」の塗装で調べてみましたが、それらしいものが見つかりませんでした。
唯一、「能面」を作る際に裏面の処理に「過マンガン酸カリウム」を塗布しているそうです。
漆を塗る前に、「過マンガン酸カリウム」で表面を化学的に焼き、耐久性をあげているそうです。
・・・「過マンガン酸カリで焼きを入れる」…と言ってました。
実際には…
これが…
塗布すると、化学変化を起こし…
いい感じに同系色に落ち着いてきます。
現代の着色塗料から補修溶剤などなどいろいろ試しましたが、これが一番しっくりきました。
木工教材にも載ってない新たな発見でしたので、感動してしまいました!
そして仕上げた経典箱です。
フタも和紙が貼られた部分は触らず、他を洗いました。 また無くなっていた2枚のフタも作りました。
長くなりましたが、もうちょっと語ります(笑)
これとは別に「経台」の修理もご依頼頂きました。
こちらも古いもので、欠けている部分を新たに作って直しました。
ガタつきや木が痩せて不均衡な個所などを補修し、艶黒で吹付け塗装して仕上げました。
雲型を作るのに、卓上糸鋸が活躍しました!
今回、新しく作るか否か・・・随分悩みました。確かに新たに買ったり、作ったりしたほうが経済的であったり、見栄えも良くなったりしますが…
「思いを繋ぐ」…このキーワードを無碍に払拭出来ませんでした。
昨日、お納めさせて頂きましたが、やはり同じように御先祖から受け継がれた様々な調度品や家具と同じ場所に置きますと言うに言えない同期性を感じました。
本箱単体では決して感じることの出来ない歴史のオーラみたいなものでしょうか。
僕も想い出しました!
今住んでいる増築部分は以前は祖父母の隠居部屋でした。
幼い記憶では、祖父の退職金で建てた部屋と聞きました。
戦中戦後、家族のために身を粉にして働いた尊敬すべき祖父でした。
その隠居部屋には小さな床の間があり、そこで使われていた「床柱」を増築したロフト部屋に嵌めてもらいました。
サイズが合わず、切り欠き部分が出ちゃってますが…
「何か残したい」「思いを繋げたい」…20年前、そんな気持ちの表れでした!
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2015/02/15 00:43 | [ 編集 ]
Re: 素晴らしいお仕事…
KGMさん
ありがとね!
貴重な経験のオンパレードです(笑)
曲線がちょっと嫌いになりました(笑)
がんばります!
2015/02/15 01:09 | 木工房 「あちゃちゃ・わちゃちゃ・ぎっちょんちょん!」 by原田 [ 編集 ]
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